社内コーチは覚悟と
コンテキストが決定的
すごい会議の導入を機に、社内コーチを育成する企業が増えている。
社員でありながら、自らの会社にコーチングする。そこにはどんな喜びや苦悩があるのか。コーチとしてどんな覚悟をしたのか。株式会社セイバンの社内コーチ、山口 淳氏にインタビューした。
- 山口さん、この1年、社内コーチとしてうまくいったことを教えてください。
そうですね。なんといっても、自分自身が1年間、コーチというコンテキストでやり続けられたというのが一番ですね。
僕も社員なので、いろんな目標やコミットメントに対して、これはできそう、できなさそう、前に失敗したことがあるとか、思う部分があるんですけれど、僕自身が最初からそれを受け入れることはせずに、成果だけにコミットするという立場で社内のメンバーと会話してきました。それがこの1年、うまくいったことだと思います
- 他に機能したことがあれば教えてください。
「戦略的フォーカスを達成するためには」という判断基準に基づいて会話をするようになったことですね。
目標を決めたら「そのために今、何をするか?」「今やってることでどんな成果が手に入るのか?」「このままで達成するのか?」日々の会話の中で口にするようになりました。
あと、参加しているメンバー全員が、有言実行できるようになりました。
コミットメントを立て、「私がやります。何日までにこうします」と、確実に行動してくれた。仮に目標に達成しなくても、言ったことはやる。それが、すごい会議を導入して機能したことですね。
- 社内コーチとしてどんなことに苦労しましたか?
社内コーチ専任となった3~4ヵ月後、去年の夏あたりが一番苦しかったですね。
当時、僕はコーチでありながらセッションのメンバーと同じように戦略的フォーカス達成に向けて一つ一つのコミットメントや問題を、自分自身で問題解決しようとしてしまっていて、頭も体も疲弊した状態になってしまいました。
- どのようにして乗り越えたのですか?
具体的に行ったことは、「私は何も知らない」というあり方にシフトしました。
解決するのは、メンバーのみんなであって僕じゃない。僕は日々そんな会話ができるようなサポートをする。それまでコミットメントリストやセッションで使った資料をファイリングして残していたんですけど、その日のうちにシュレッダーすることにしました。
あとはセッションや金脈会議において具体的な内容をメモしない。決まったことや、いつまでに何をするかはメモしますけど、それ以外はすべてやめました。
私は株式会社シュゼットの社内コーチをしながら、御社を含めさまざまな企業のコーチングをしているのですが、正直社内が一番やりにくいですね。
役職の上下関係がありますし、これまでの人間関係ができていますから。今でも忘れられないのが、社内コーチとして初めての金脈会議のときに「なんでお前にそんなこと言われなあかんねん」と役職が上のメンバーの方に言われたことです。
でもすごい会議には型があって、このときにはこう質問すると決まっていたので、ただコーチングの質問をすることに徹することができました。
- 山口さんが社内コーチとして他にどんな苦労がありましたか?
他には社内コーチだからという苦労は特に感じていません。問題を機会に置き換えるということを知ったので、ほんとは苦労かもしれないけれど、全部機会だと捉えられるようになりました。だから、何が大変だった?と聞かれても、パッと思い出せません。
- 社内コーチの皆さまへ、山口さんからメッセージをお願いします。
僕はやはりコンテキストが非常に重要だと感じています。
まず自分はコーチであると自覚することが大事ですね。僕は社内コーチになって1年間、「今日一日が終わったときに、どんな成果が出たら自分にとって最も価値があるか」「どんなあり方でセッションに臨むか」など、常に質問するようにしています。
といっても答えは僕の中では常に一つ。やっていることがセイバンの戦略的フォーカス達成に効果的かどうか、それだけです。これから社内コーチになる方々に伝えたいことは、社内コーチであるというコンテキストを初日から持つこと。
徐々にそうなったらいいなという思いでは難しい。あと社内コーチという仕事は会社を変えることに直接的に貢献できる仕事である、そう思えたらコンテキストはより手に入りやすくなると思います。
- 社内コーチをやっていてこんな良いことがあった、やってて良かったと感じたエピソードがあれば教えてください。
1年目を振り返るセッションがあったとき、メンバーから、この1年の感謝とか、変化を聞いたとき、込み上げるものがあって思わず泣きそうになりました。
僕の場合、「なんでお前にそんなこと言われなあかんねん」と言っていた方が、1年たったときに「あなたが社内コーチでいてくれたからこれだけの成果を挙げられた。ありがとう」と言われたのが嬉しくて、今でも心に残っています。
あと僕がメンバーにコーチングしていたときに社長から「あなたからそんな台詞を聞ける日が来るなんて思わなかった」と言われたときはめちゃくちゃ嬉しかったですね。
僕は、みんなを引っ張るというより、横を一緒に併走するようなコーチになりたい。
走るのは皆さん。だから、そんなに感謝される存在ではないと思いますが、うまくいったときの達成感をメンバーと一緒に味わいたいですね。